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東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)826号 決定

申請人 岩田綾子

被申請人 東京生命保険相互会社

一、保証 無保証

二、主  文

被申請人が昭和二十五年二月二十三日申請人に対してなした解雇の意思表示は、その効力を停止する。

三、理  由

第一、申立の趣旨。

申請人は、主文と同旨の決定を求め、

被申請人は、「申請人の本件仮処分の申請は、これを却下する。」との決定を求めた。

第二、争のない事実。

一、申請人は、昭和十四年十月七日仁寿生命保険株式会社に入社したが、同会社は、野村生命保険株式会社に合併せられ、後者は更に、組織を変更して、被申請人会社となり、この間、申請人は、内勤職員として勤務し東京本社の原簿課主任となつた。

二、しかるところ、被申請人会社は、昭和二十五年二月二十三日申請人を解雇する旨の意思表示をなした。

第三、申請人の主張

一、被申請人会社が、申請人に対して示した解雇の理由は、

(イ)  家庭の事情がよい。

(ロ)  特殊技能者である。(過去においてタイピストをしていた。)

(ハ)  勤務年数が長いから、退職金が多い。

(ニ)  その他いろいろな事情。(具体的には示さない。)

というのであるが、右は社会通念上、解雇の正当な事由とはならない。

二、ところで、申請人は、被申請人会社の内勤職員を以て組織せられた東京生命内勤職員組合の組合員であつて、昭和二十二年二月各課単位の代議員に選出されて以来、支部幹事、又は委員等に選出せられ、組合活動に参加し、労働条件の維持、改善のため努力してきた。

三、しかるに、被申請人会社は、右職員組合の結成に介入し、その主要役員に、会社の利益代表者(課長、支社長)を据え、又、活fな組合活動を行つた社員を解雇したり、他に転勤を命じたりしている。

四、このような事情を綜合すると、本件解雇は、申請人が組合活動をしたことを理由とするものといい得るから、不当労働行為として無効である。

五、尚被申請人会社は、解雇予告手当を支払うことなく申請人を即時解雇したものであるから、労働基準法第二十条に違反して無効である。

六、仮に、不当労働行為が成立しないとしても、本件解雇は、解雇権の濫用として無効である。

第四、被申請人の主張。

一、本件解雇は(一)取扱件数の著るしい減少、(二)職員自然退職者の減少、により被申請人会社の経営上やむを得ず冗員を整理するためになされたものであり、申請人については同人が性格上同僚と折合が悪く、チーム、ワークを特に必要とする保険会社の事務能率を阻害するので従前の勤務成績、解雇が申請人に与える影響等を考慮して、これを解雇したものであつて、何等不当労働行為たる解雇ではない。

二、右解雇に際し、被申請人会社は、申請人に対し、就業規則所定の退職慰労金一万四千百五十三円の他、申請人の四ケ月分の給料に相当する三万七千二百八十八円、(各自は特別退職金ではあるが、)を解雇予告手当として提供したから、労働基準法第二十条には違反しない。

三、仮に、解雇が無効であるとしても、申請人は、現在全生保労働組合に勤務し、賃金を得ているから、仮処分の必要はない。

第五、当裁判所の判断。

当事者双方の提出した疏明資料により当裁判所が一応認定した事実関係に基いて判断した理由の要旨は、次のとおりである。

一、本件解雇が被申請人主張のように、被申請人会社の経営上やむを得ず、なされた冗員整理に際し、行われたものであることは認められるが、申請人の解雇事由に付いてみると、

(イ)  申請人には、やや勝気なところが認められるが、同僚との折合が悪く、これがため、被申請人会社の事務能率を阻害するという事実は認められない。

(ロ)  申請人は、原簿課カード係主任として相当の業績を挙げており、その業務成績が他よりも劣るということは認められない。被申請人は、その他、家庭の事情(両親健在し、菓子、果実、販売業をいとなんでいること。)特殊技能を有していること(元タイピスト)、女子事務員としては高給で退職金も比較的多く、将来更生しやすい等の諸点を考慮したというが、これらは解雇を正当化する事由とはいえないから、結局本件解雇は、正当な事由に基かない解雇である、ということができる。(この点は、更に後に述べる。)

二、他方、申請人は、被申請人会社の内勤職員を以て組織せられた東京生命内勤職員組合員であつて、昭和二十二年二月各課単位の代議員に選出されて以来、支部幹事、又は委員等に選出せられ、給与改訂、生理休暇の要求等に関し、組合活動を行つたがとりわけ、右職員組合は、その組合員に課長支社長を含み、しかも、それらの経営補助者が、組合役員のほとんど全部を占めていることにかんがみ、改正労働組合法の施行を契機に、これらの経営補助者を除外して、組合を結成しようとする運動に参加していた、ことが認められる。

三、加うるに、過去においても、比較的活溌な組合活動をしたものを解雇したり、他に転勤せしめたりしたと疑われる事例、(たとえば、昭和二十二年一月の岩永他五名の解雇、昭和二十四年八月の大村欣の解雇等)も認められるので、これらの事実を綜合すると申請人の本件解雇は、申請人が前記のような組合活動を理由とするものであるということが一応肯定できる。

四、もつとも、右職員組合は、経営補助者を組合員とししかもこれらのものが、組合役員の大半(現在では十名中、九名)を占め、且つ、これらの役員によつて、組合の業務が運営され、組合活動が行われていることにかんがみれば、右職員組合は、これを「労働者の自主的な団体」(労働組合)であるということはできないであろう。

(経営補助者が組合員となつているのは、被申請人会社に、中堅層を欠き、これがため、若年者に組合の運営をまかせておくときは、会社と組合との協調に支障をきたすので、この弊害を除去する意図に基くものであることは、うかがえるが、その意図はともあれ、このような多数の経営補助者をもつて支配する場合には、労働者の団体は、その自主性を失わざるを得ないのである。

けだし、使用者と相対立する利益を代表する組合だけが自主性を持ち得るものといい得るからである。)

かく解すると、本件解雇が不当労働行為とならないようにも考えられるが、申請人の前記組合活動は、抽象的にみて自主性のある組合において通常行われる組合活動もしくは、自主性のある組合を結成しようとして行われた行為であるということができるから、これを理由とする解雇は、不当労働行為として無効であるということができる。

なぜならば、労働組合法第七条第一号は、「労働組合」の正当な行為をしたことを理由に差別待遇することを禁止して、「特定の」「労働組合」を保護するのみにとどまらず、ひろく、正常な労働運動を使用者の悪意から保護する目的を以て、その労働運動に参加した労働者を保護しようとするものだからである。

五、なお、本件解雇は正当な理由に基かないものとしても無効である。

一般には使用者は、法律、労働協約又は就業規則等に抵触しない限り、自由に労働者を解雇することができるとせられているのであるが、

(一)  企業の公共性にかんがみ、使用者の人事権は、企業の生産性を昂揚するような仕方で行使せらるべく、その生産性の基礎である労働者の生産活動ないし、その生存権を侵害するような人事権の行使は許されない。

(二)  労働者は、「その意思に従つて職を選び最も有利な条件で労働力を提供し、その生存を維持すること、而して他人に妨げられることなく、かかる雇用関係を継続する権利」、(労働の権利)を有するのであるから、これを侵害するような解雇は許されない。

というべきであり、従つて、使用者はその従業員が企業の生産性に寄与しないとか、有機的全体としての経営秩序をみだす等、社会通念上、解雇を正当ずけるような相当の理由がある場合に限り、有効に解雇することができると解するのが相当である。

しかるに本件解雇については、さきに認定した事実に徴すれば、右に述べたごとき正当な事由が認められないから、この点においても、本件解雇は無効である。

六、解雇が無効であるにもかかわらず、被解雇者として取扱われることは、物心両面において、労働者の著るしい損害であるから、申請人が他に賃金を得て就業していることも認められない本件においては、申請人の従業員たる地位を保全する仮処分を命ずる必要ありと認め、主文のとおり決定したしだいである。

(裁判官 柳川真佐夫 中島一郎 高島良一)

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